大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)1058号 判決 1974年7月08日
原告 木村辰男
被告 国 外二名
訴訟代理人 宝金敏明 外三名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「被告南は原告に対し別紙物件目録記載の建物につき昭和四二年四月一九日大阪法務局中野出張所受付第一五七〇〇号所有権移転請求権仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をせよ。被告国、同林は右本登記手続を承諾せよ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、
一 原告は、昭和四二年四月一八日被告南に対し金二〇〇万円を、弁済期同年六月一八日、利息日歩四銭一厘、遅延損害金日歩八銭二厘と定めて貸付け、その際別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)につき代物弁済の予約をし、これを原因として請求の趣旨記載の所有権移転請求権仮登記(以下本作仮登記という)を了した。
二 同被告は右弁済期日までの元金のうち金八五万円と利息を支払つたのみで残元金一一五万円を支払わなかつたので、原告は同被告に対し同年一二月二一日到達の書面をもつて本不履行を理由に代物弁済の予約完結の意思表示をした。
三 ところで被告国は本件建物につき大阪法務局中野出張所昭和四四年一一月二七日受付第四七四三〇号をもつて同月二二日東住吉税務署による差押を原因とする差押登記、前同日受付第四七四三一号をもつて同月二二日同税務署による参加差押を原因とする参加差押登記をなし、また被告林は本件建物につき前同出張所昭和四五年一二月二六日受付第五二二五七号をもつて同年四月三〇日の設定契約を原因とする抵当権設定登記(債権額四〇〇万円)を了したが、右各登記はいずれも本件仮登記におくれるものである。
四 よつて、原告は被告南に対し本件仮登記の本登記手続を、その余の被告に対し右手続の承諾を求める。
と述べ、後記被告らの主張に対し、
五 本件代物弁済は清算型でなく、貸付残元利金で本来の代物弁済をしたものであつて、当時の本件建物の価格も金一二五万円にすぎず債権額と比し決して不当なものではない。
と述べた。
被告南は主文同旨の判決を求め、請求原因一ないし三の事実を認めると述べた。
被告国代理人は主文同旨の判決を求め、答弁および主張として、
一 請求原因一、二のうち本件建物に本件仮登記がなされていることを認めるがその余の事実は不知、同三の事実を認める。
二 被告南は昭和四三年分の所得税六二万三四三七円(延納による利子税九四〇〇円を含む。法定納期限等は昭和四四年三月一五日。)および昭和四四年分の所得税の予定納税第一期分四三万三六〇〇円(但し確定申告により一一万二五〇〇円となる。法定納期限等は昭和四四年七月三一日。)の国税を滞納したので、所轄東住吉税務署長は昭和四四年一一月二二日本件建物につき差押および参加差押を行つて滞納処分手続を開始し、公売期日を昭和四六年三月一九日と定めて公売公告を行つたが、本訴が提起されたため右公売期日を取消し現在手続を中止している。
ところで原告と被告南との本件代物弁済の予約は、原告主張の貸付債権につき本件建物に抵当権を併用していることなどからして、その実質は目的物件から債権の優先弁済を受ける担保権にすぎないと解されるところ、本件建物の昭和四七年一二月一〇日当時の価額は金四二二万九〇六三円以上であつて、本件口頭弁論終結時の適正評価額もこれを下らず、原告のいう貸付残元利金との間に合理的均衡を失するものであるから、その超過分を債務者や登記簿上の利害関係人に対し清算すべきである。そして本件建物についてはすでに被告国により滞納処分手続が開始されているのであるから、原告は右手続に参加して自己の貸金債権につき優先弁済をはかればよく、被告国に対し不動産登記法一〇五条に基づく本登記手続の承諾を求めることは許されない。
しからずとするも、被告国は本件建物から前記滞納税の優先弁済を受ける地位にあるので、前記超過分につき清算金の支払と引換えにのみ右の承諾をする。
と述べた。
被告林代理人は主文同旨の判決を求め、答弁および主張として、
一 請求原因のうち被告林が本件建物につき原告主張の抵当権設定登記を了していることを認めるがその余の事実は知らない。
二 本件建物の本件口頭弁論終結時の価額は金五五八万八六二五円を下らず、原告主張の貸付残元利金との間に合理的均衡を失しているから、本件代物弁済の予約は清算型の債権担保契約というべきところ、被告林は本件建物の後順位担保権者であつて、被告南に対しなお元金二八〇万円の前記抵当残債権を有しているから、その清算金の支払と引換でなければ本訴請求には応じられない。
と述べた。
<証拠関係省略>
理由
請求原因一ないし三の事実は原告と被告南との間で争いがなく、原告とその余の被告との間では<証拠省略>によつて認めることができる(本件仮登記、差押登記、参加差押登記、抵当権設定登記の点は原告と被告国との間で、抵当権設定登記の点は被告林との間でそれぞれ争いがない)。
ところで前記<証拠省略>によれば、原告は敍上金二〇〇万円貸付の際、本件代物弁済の予約を締結するのと同時に右貸金担保のため本件建物に抵当権を設定し同年同月一九日大阪法務局中野出張所受付第一五六九九号により抵当権設定仮登記を経由したこと、および本件代物弁済の予約も実質上は本件建物から債権の優先弁済を受けることを目的とした担保権にすぎないことが認められるから、原告は債務者たる同被告が弁済期日までに元利金を弁済しないため予約完結権を行使したときは、本件建物を適正な時価によつて取得もしくは処分し、その価額から自己、および優先弁済を受くべき後順位者の債権額を差引き、なお残額があるときはこれを清算金として同被告に返還すべきものである。そして、<証拠省略>によれば本件口頭弁論終結時の本件建物の価額は原告の残債権額を相当上廻ることが予想され、<証拠省略>も直ちにこれを左右し難いところ、以上諸事情および弁論の全趣旨からすると、被告南も前記清算金の支払と引換えにその本登記義務の履行をする趣旨で、なお原告の本訴請求に応じないものと解するのが相当である。したがつて、原告は被告らに対しその清算金の支払と引換えにのみ本件本登記またはその承諾義務の履行を求め得るにすぎず、またこれら担保目的の実現とそれに伴う清算は特別の事情がない限り一挙にされのが妥当であり、更に目的不動産につきすでに競売手続が開始されているときは、原則としてその手続に参加してのみ自己の債権の優先弁済をはかりうるものというべきである(最高裁判所昭和四五年三月二六日、同年九月二四日各判決、民集二四巻三号二〇九頁、同一〇号一四五〇頁参照)。そして右にいう競売手続には、被告国が自ら主張するように国税徴収法による滞納処分手続などの強制換価手続をも包含するものと解するのが相当であるところ(国税徴収法二三条一項も直ちに右認定の妨げとならず、ただ国税の法定納期限等以前にされた担保目的の仮登記権利者に対しては差押にかかる国税よりも優先して配当すれば足りるものというべきである。)、<証拠省略>によれば、被告南は被告国主張のとおり国税を滞納したため、所轄の東住吉税務暑長は既述のとおり本件建物に対し昭和四四年一一月一七日差押、参加差押をなし、公売期日を昭和四六年三月一九日とする公売公告をなしたうえ、国税徴収法九六条に基づき原告の本訴提起以前である同月八日原告にその旨を通知していることを認めることができる。したがつて他に別段の事情の認められない本件では、原告は右滞納処分手続に参加してその債権の優先弁済を受ければ足り、もはや債務者や登記簿上の利害関係人である被告らに対し、本件仮登記に基づく本登記請求あるいはその承諾を求めることは許されないというべきである。
そうすると原告の被告らに対する本訴請求は爾余の点を判断するまでもなく理由がないからこれを棄却すべく、よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 黒川正昭、青木敏行、南敏文)
物件目録<省略>